季節が寒さに向かうにつれ、牡蠣が美味しくなる。牡蠣の賞味期間は、月の文字にRが入る九月(September)から四月(April)というのは日本でもよく知られた話だが、養殖が当たり前の今では昔の話となりつつある。殻付きの生牡蠣にレモンを滴らせ啜るのは、旬を楽しむ優雅な習わしというのはモーパッサンの「ジュール叔父」からもお馴染み。生も良いが、火を入れた牡蠣は安心で一層美味しい。ご飯と味噌汁に牡蠣フライ、サクと齧れば、その美味しさは口いっぱいに広がる。
潮の香熱く放つや牡蠣フライ 越智淳子


十月:松茸飯、土瓶蒸し、焼き松茸

 松茸は希少価値の食材の代表格。その香りは独特で、しかも採れにくい。昔人々は、里山で燃料とする松葉掻きをしていたが、化石燃料となり松葉掻きが絶えると、土地は落葉で富栄養化し、その結果生育しにくくなったとか。アカマツも樹齢30年ぐらいなどいろいろと条件もあり、人工的に栽培できないのは確かに希少価値。ということは、松茸はまぎれもない「旬」という季節の、秋のご馳走。松茸を焼き、ご飯に炊き込み、はたまた吸物にと松茸を料るのもまた誇らしげ。
松茸籠下げて高下駄板前は 越智淳子


九月 子芋の煮物

今月から「今夜はご馳走」がテーマ。美味しいもので心が満たされれば、どんなものでもそれが「ご馳走」。俳句では芋は里芋。八ツ頭、海老芋と形もいろいろ。親芋から子芋たくさんというのも縁起が良い。煮ればもろもろの味が沁みこみ、噛み心地のある柔らかさは美味しさのもと。「衣被」や「芋の煮ころがし」あるいは「お芋さん」、里芋をめぐる言葉は、丸く愛らしい形と深い味への有難みの故だろう。里芋は、家庭の味から京の料亭、各地の芋煮会までおそらく日本人の味の原点のひとつに違いない。

山の味海の味沁む子芋かな 越智淳子