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季語と歳時記

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講座+句会「きごさい+」【次回のご案内】

季語と歳時記 投稿日:2019年12月3日 作成者: dvx223272019年12月3日

2月1日(土)のきごさい+は、ほっぺたに キス?!


第20回 きごさい+は、2020年2月1日(土)
いつもの神奈川近代文学館で開きます。
講師は東海大学国際学科教授 小貫大輔先生。
二十代に旅先のブラジルで出会ったボランティア活動を
きっかけに、国際協力を生涯の仕事とするようになった
という小貫先生。その行動力と情熱の元は? 
きっと、ユニークで楽しいお話がお聞きできるでしょう。

演 題 : ほっぺたに キス。ブラジル オキシトシン
講 師 :  小貫 大輔 (おぬき だいすけ) 
  
プロフィール : 東海大学国際学科教授。東京大学教育学研究科(健康教育)博士課程修了。ハワイ留学をへて、1988年にブラジルにわたる。サンパウロのスラムで、5年間にわたってエイズ予防活動に従事。その後、日本政府から専門家として7年間ブラジルに派遣され、助産師という職種を作るプロジェクトに参加。2006年に帰国して現職。

講師のひと言 : 「こんにちは」の挨拶はどこの文化にも存在する儀礼ですが、それをどんなジャスチャーをつけておこなうかというと千差万別です。私はブラジルに長く住んだので、「ほっぺたのキス」に慣れ親しみました。日本の大学で異文化理解の一環としてこれを教えようとすると、いつも教室中が湧きかえるほどの大騒ぎです。挨拶のジェスチャーは、それぞれの文化が最も大切にしている価値観をよく表しています。それがどんな方向を向いているのか、一緒に考えてみましょう。オキシトシンという現代のキ-ワードもご紹介します。

日 時: 2020年2月1日(土)13:30〜16:30 (13:10 開場)
13:30~14:30 講座 
14:50 投句締切(当季雑詠5句)
14:50~16:30  句会

会 場: 神奈川近代文学館 中会議室  (横浜市、港の見える丘公園)
〒231-0862 横浜市中区山手町110
みなとみらい線「元町・中華街駅」6番出口から徒歩10分
http://www.kanabun.or.jp/guidance/access/
    
句 会:  当季雑詠5句(選者=小貫大輔、長谷川櫂)   句会の参加は自由です。 
参加費:  きごさい正会員1,000円、非会員2,000円
参加申込み: きごさいホームページ 申し込み欄 から。
またはきごさい事務局に FAX 0256-64-8333 

きごさい+「和菓子で楽しむ秋」レポート

季語と歳時記 投稿日:2019年9月30日 作成者: dvx223272019年10月1日

栗菓子いろいろ
画像提供:株式会社虎屋

9月22日、「第19回きごさい+」が神奈川近代文学館で開催された。講師は、株式会社虎屋 菓子資料室、虎屋文庫主席研究員の中山圭子さん。中山さんの講座は今年で四年目。最初の年は一月で梅の和菓子、その翌年は桜の和菓子、昨年は涼を呼ぶ夏の和菓子、そして今回は「和菓子で楽しむ秋」をテーマにお話しいただいた。

◆日本人は栗が大好き
 栗は縄文時代から食べられていたようで、三内丸山遺跡にもその痕跡が残っている。甘くてアクが少なくて腹持ちがよくて、昔の人も栗が生るのを心待ちにしたことだろう。それは現代の私たちも同じ。店頭に栗や栗のお菓子が出るとそわそわする。虎屋の栗の生菓子は必ず新栗を使うので、その年の天候によって違う栗の出来や入荷状況を見極め、販売開始日を決めるそうだ。
 受付には栗蒸羊羹、栗鹿の子、栗粉餅と、虎屋謹製の菓子が三種並び、参加者は楽しそうに迷いながら一つを選び席に着く。私は栗粉餅をいただいた。栗粉餅の名は虎屋の元禄時代の史料にあり、その頃は餅に栗の粉をまぶしたような素朴なものだったと考えられるが、だんだん手の込んだ菓子へと変化していったという。さて、目の前の栗粉餅、断面は求肥とこし餡と栗のそぼろの見事な三層、目も楽しみながら美味しくいただいた。
栗鹿の子はつやつやと秋の日の輝き。栗蒸羊羹は切り口の模様がみんな違うのが楽しい。講座の後の句会では、羊羹を闇と見立てたり、栗を月のかけら、光、木もれ日と表現したり、栗羊羹の句がたくさん出た。

◆季節の移ろいの表現
 夏の菓子「青梨」が、八月後半には「黒梨」で登場。形は同じだが、色合いで秋の気配を表現しているという。最初は黒い梨?とびっくりしたが、「黒梨」の画像を見ていると秋めいた感じがするから不思議だ。実物の菓子「黒梨」を見たら、そして味わったらなおさらだろう。上生菓子は半月ごとにラインアップが変るという。菓子と菓銘が季節の移ろいを教えてくれる。そぼろをつけた菓子、きんとん製は、形は同じだが、そぼろの色、配色、配分が少しずつ変っていき、秋の深まりを感じさせてくれる。それぞれの菓銘も詩的で、菓子職人の感性と技量のすばらしさを感じた。

◆行事とモチーフ
 秋の代表的な行事、モチーフと菓銘の資料が配られ、画像とともに秋の和菓子が紹介された。
1.行事(重陽、敬老の日、月見、お彼岸など)
2.植物(菊、桔梗、薄、紅葉、稲穂)
3.果物(柿、栗)
4.動物(雁、稲雀、鹿)
同じモチーフでも、その姿・形・色を具体的にデザインしたものと、イメージを抽象的に表現したものがあるのが面白い。具象性の菓子は、例えば菊の菓子は花びら一枚一枚まで緻密に作られていてそのリアルさ、美しさに驚いた。抽象的な菓子のほうは、菓銘を頼りに、デザインした人の意図を想像するのだが、はっとひらめく菓子もあれば、まったくわからない菓子もある。中山さんの解説を聞いてやっと納得、同時に職人の発想力に感心した。
現在は、抽象的なお菓子の意匠になかなか関心が集まらず、わかりやすい具象性のある菓子の方が人気なのが少しさびしい、と中山さんは語った。

◆見立て、意匠
 様々な文化が花開いた江戸時代は、菓子においても遊び心があふれていたという。今は作られていないいくつかの菓子の絵図がスクリーンに映った。ほとんどが見立て、つまり抽象性の菓子のようだ。何を表現しているのかよくわからなかったが、中山さんの説明で、これは波、ここは千鳥と聞くとそのように見えてくるから不思議だ。和歌、古典を踏まえた菓子も多く、当時は、菓子職人も客も相当な教養、想像力、そして遊び心があったのだろう。見立ての絵解きを愉しみ喜ぶ客がいてこそ、職人も意匠と技術に腕を磨いていったに違いない。
 
◆羊羹
 羊羹の意匠もさまざまで奥深い。「月の眺(nagame])」という羊羹は、月の満ち欠けに想を得た意匠(デザイン)で、日ごと姿を変えてゆく月を一棹の中に表現したという。切るところによって切り口に三日月や弓張り月があらわれるのだろうか。虎屋文庫資料展「虎屋文庫の羊羹・YOKAN」展(11/1~12/10、赤坂虎屋ギャラリー)で展示されるという。ぜひ見に行きたい。また、待望の「羊羹」の本がまもなく出版される。こちらも楽しみ。

中山さんの楽しく親しみやすい語り口にあっという間の一時間だった。専門的なお話もわかりやすく、日本の和菓子文化の豊かさ、日本人の美意識と感性に触れた気がした。そして、何より「お菓子って美味しいだけでなく楽しい。」という、中山さんの思いが、私たちにも伝染?したようだ。(葛西美津子記)

<句会報告>
◆中山圭子選
【☆特選】
羊羹の闇に飛びくる栗小僧       清水今日子
【特選】
羊羹や月のかけらの栗散らし      西川遊歩
笑ふ目のごとき焼印雁渡る       西川遊歩
栗を煮る縄文土器の火焔かな      鈴木伊豆山
切り口は一期一会の栗羊羹       青塚美恵子
黒梨や一人で過す夜の秋        山本桃潤
栗鹿の子宝珠のごとく輝けり      清水今日子
木もれ日を一棹にせり栗羊羹      長谷川櫂
栗羊羹月の光をちりばめて       葛西美津子

◆長谷川櫂選
【☆特選】
亥の子餅かういふものといふでなく   竹下米花
【特選】
暗闇に月さし入るや栗羊羹       飛岡光枝
日本の秋のおごりや栗羊羹       飛岡光枝
栗羊羹月山に月出てゐるか       上村幸三
落雁の秋ほろほろとこぼれけり     趙栄順
着綿のことに心に入む身かな      葛西美津子
美しや栗羊羹の切り口は        山本桃潤
【入選】
風音の一夜明けたり栗拾はん      金澤道子
目も楽し口も楽しや栗粉餅       金澤道子
ひと晩を寝かせて栗の渋皮煮      金澤道子
うれしさの音引き摺つて千歳飴     飛岡光枝
小さき手に月見団子をひとつづつ    飛岡光枝
栗羊羹月の光をちりばめて       葛西美津子
この山の熊よろこばす栗の秋      葛西美津子     
栗の菓子栗みつけたるうれしさよ    趙栄順
大いなる遺愛の湯呑み栗鹿の子     中丸佳音
やれうれし栗きんとんの秋来る     山本孝予
栗鹿の子宝珠のごとく輝けり      清水今日子
初雁や月にかかりし二羽三羽      山本桃潤

「HAIKU+」12月1日は髙柳克弘さん

季語と歳時記 投稿日:2019年9月24日 作成者: dvx223272019年12月3日

「HAIKU+」は、「今何が俳句で問題か」という統一テーマで現在ご活躍中の俳人をお迎えして、お話を聞き、俳句の未来を考える催しです。
第3回「HAIKU+」の講師は俳人の髙柳克弘さん、

12月1日(日)に神奈川近代文学館で開催致します。
演 題:〝軽み〟ならぬ〝重み〟の時代へ
講 師:髙柳克弘(たかやなぎ かつひろ)

〈講師のひと言〉
芭蕉が晩年に辿りついたという〝軽み〟。現代俳人にも少なからぬ影響を与える〝軽み〟ですが、口当たりの良い言葉がもてはやされる現代には〝重み〟こそが意味を持つのではないでしょうか。〝重み〟は主題を持つことで生じると私は考えます。俳句において季語は必ず主題であるべきなのか。俳句で思想や観念を書くことはできないのか。俳句ならではの主題の表現法とは何であるのか。みなさんと一緒に考えてみたいです。

<講師プロフィール>
俳人、俳句結社「鷹」編集長。1980年、静岡県浜松市生まれ。早稲田大学で堀切実のもと芭蕉を研究。俳句実作は藤田湘子に師事。 第19回俳句研究賞受賞。 句集に『未踏』(第1回田中裕明賞)、『寒林』。 評論集に『凛然たる青春』(第22回俳人協会評論新人賞)、『どれがほんと? 万太郎俳句の虚と実』、 『芭蕉の一句』、 『蕉門の一句』ほか。  2017年度、Eテレ「NHK俳句」選者。11月10日から2月16日まで浜松文芸館で「ことごとく未踏 俳人・高柳克弘の世界展」 を開催。

日 時:2019年12月1日(日)14:00?16:15(13:45 開場)
14:00~15:30 講演
15:30~16:15 藤英樹(きごさい編集長)との対談、質疑応答

会 場:神奈川近代文学館 中会議室(横浜市、港の見える丘公園、〒231-0862 横浜市中区山手町110、みなとみらい線「元町・中華街駅」6番出口から徒歩10分)

http://www.kanabun.or.jp/guidance/access/
参加費:2,000円
申し込み:きごさいホームページの申し込み欄から、あるいはきごさい事務局にファクシミリでお申し込みください。

FAX 0256-64-8333

恋の俳句大賞(2019年前期)該当作なし

季語と歳時記 投稿日:2019年8月7日 作成者: dvx223272019年8月8日

恋の俳句大賞、前回同様、今回も該当作がありませんでした。

☆趙栄順 選
【特選】
夕立や新しい恋つれてこい 小島寿々
夏蜜柑香る男に惚れちまう 田村美穂
甘くても恋苦くても恋レモン水 明日也
おはようと目覚めし君と初笑ひ 朴文英
【入選】
かざぐるま君への想い空回り 矢作輝
死ぬほどの恋も二度ほど茄子の花 川辺酸模
好きですと言っては負けねチューリップ 鹿沼湖
帰すべきひとを帰して髪洗ふ 澤田紫
まだ肩に君の重さの朧月 椋本望生
喫茶店ポインセチアと待ち人と 佐々木健一

☆長谷川櫂 選
【特選】
きみとゐて心まぶしき雪野かな 武田百合
鯛焼きや恋人たちに焼き上がり 佐々木健一
麦の穂のごとき言葉をもらふ恋 永守恭子
【入選】
田植ゑて二人見上げる宵の星 川辺酸模
ジャスミンティーくるくる恋は終わらない 小島寿々
失恋の指に線香花火かな 鹿沼湖
わが恋を知るや知らずや落とし文 湯浅菊子
友情となりし恋あり遠花火 永井和子

恋の俳句大賞締め切りました

季語と歳時記 投稿日:2019年8月1日 作成者: dvx223272019年8月1日

たくさんの応募ありがとうございました。応募総数は2060句(前回は983句)でした。
入賞発表までしばらくお待ちください。
今日から2019年後期分を募集いたします。

「恋の俳句大賞」締め切り迫る

季語と歳時記 投稿日:2019年7月18日 作成者: dvx223272019年7月18日

第9回恋の俳句大賞の締め切りは7月31日です。大賞受賞者にはイニシャル入り銀製ペーパーナイフ(CHRISTOFLE)を贈呈いたします。

あなたの「恋の句」をお待ちしています。

投句はこちらから

9/22のきごさい+「和菓子で楽しむ秋」

季語と歳時記 投稿日:2019年7月6日 作成者: dvx223272019年9月24日

栗菓子いろいろ
画像提供:株式会社虎屋

中山圭子さんの「和菓子で楽しむ秋」
第19回 きごさい+は、9月22日(日)いつもの神奈川近代文学館で
開きます。講師は虎屋文庫の中山圭子さん。
前回に続き、虎屋の和菓子つきです(定員50名)。
お茶は各自ご持参ください。

演 題 :  和菓子で楽しむ秋

講 師 :  中山 圭子 (虎屋特別理事、虎屋文庫主席研究員)   
略 歴: 東京藝術大学美術学部芸術学科卒業。四季折々の和菓子の
デザインの面白さにひかれて、卒論に「和菓子の意匠」を選ぶ。
現在、和菓子製造販売の株式会社虎屋の資料室、虎屋文庫の研究員。 
著作に「事典 和菓子の世界 増補改訂版」(岩波書店)、「江戸時代の和菓子デザイン」(ポプラ社)、「和菓子のほん」(福音館書店)など。     

<講師のひと言> この季節ならではの栗菓子ほか、9月9日の重陽の節句、月見、紅葉狩などに関連した和菓子の数々をご紹介します。

日 時: 2019年9月22日(日)13:30〜16:30 (13:10 開場)
13:30~14:30 講座 
14:50 投句締切(当季雑詠5句)
14:50~16:30  句会

会 場: 神奈川近代文学館 中会議室  (横浜市、港の見える丘公園)
〒231-0862 横浜市中区山手町110 TEL045-622-6666
みなとみらい線「元町・中華街駅」6番出口から徒歩10分
http://www.kanabun.or.jp/guidance/access/
    
句 会:  当季雑詠5句(選者=中山圭子、長谷川櫂)
        句会の参加は自由です。 

参加費:  きごさい正会員1,000円、非会員2,000円 虎屋和菓子つき、飲み物は各自ご持参ください。

参加申込み: 事前申込みの方には虎屋の和菓子を用意します。9/17(火)までにきごさいホームページ申し込み欄から、あるいは電話、FAX、でお申し込みください。申込みなしの当日参加もできますが、お菓子は申込者優先とさせていただきます。  きごさい事務局 TEL&FAX 0256-64-8333 

きごさい+「キリシタン版と日本人」レポート

季語と歳時記 投稿日:2019年6月8日 作成者: dvx223272019年10月1日


6月2日(日) 第18回「きごさい+」が神奈川近代文学館で開催されました。
講師は東京大学史料編纂所で南蛮貿易、キリシタン史の研究をされている岡美穂子(おか・みほこ)准教授。キリシタン史の新説を交えたお話はとてもエキサイティングでした。
岡先生に講演の概要をまとめていただきました。

キリシタン版と製作に関わった日本人
―天正少年遣欧使節の光と影―
岡 美穂子 (東京大学 史料編纂所 特殊史料部門 准教授)

■はじめに
16~17 世紀のキリスト教布教といえば、ザビエルやヴァリニャーノ、フロイスなどの、
ヨーロッパ人宣教師が想起され、「西洋の宗教」が日本で受容された「エキゾチック」なイ
メージです。実際には、イエズス会(とくにイタリア人のヴァリニャーノ)は、日本人に「日本の在来宗教」との違和感を感じさせないよう、随所に細やかな工夫を施した、いわゆる「適応主義」にもとづく、布教方針を定めました。その中でも重要だったのが、「日本人宣教者の活用」です。もっと率直に言えば、「キリシタン」の伝道や指導の大半は、日本人宣教者(伊留満、同宿、看坊等)によっておこなわれた、と言っても過言ではありません。とりわけ重用されたのが、元仏僧の宣教者であったことを、近年、自説として発表しています。
 今日は、これらの日本人宣教者たちが重要な役割を果たした、キリシタン版印刷の話をしたいと思います。キリシタン版は大きく4つの種類に分けることができます。1)日本人にキリシタンを弘めるにあたり、日本人宣教者が学ぶべき教理等を印刷 2)ヨーロッパ人宣教師が日本語を学ぶためのテキストを印刷 3)辞書類 4)信徒が唱えるオラショ(祈祷)や簡易教理書の印刷物、です。

■天正少年遣欧使節と活版印刷
日本に最初の活発印刷機がもたらされたのは、天正少年遣欧使節の帰国の際でした。よく知られている4人の少年(伊東マンショ、千々石ミゲル、原マルチノ、中浦ジュリアン)以外に、印刷技術を学ぶため、三人の少年がヨーロッパへ派遣されました。ジョルジ・デ・ロヨラ(1562?-1589)、コンスタンティーノ・ドウラード(1566?―1620)、アゴスティーノ・ドウラード(コンスタンティーノの兄弟か?)です。中でもドウラードは、ラテン語とポルトガル語に秀でており、父親がポルトガル人商人であったという説もあります。コンスタンティーノは⾧崎の諫早出身で、1570年代にはイエズス会の教育施設に預けられました。そこで「同宿」として勉学に励み、少年使節と共に渡欧、帰国後しばらく経った1595 年、イエズス会に「イルマン」として入会します。つまり20年近く正式なイエズス会士ではなく、宣教師たちを助けるポジションである「同宿」で、正式なイエズス会員としては登録されていませんでした。江戸幕府の禁教令(1614)後、マカオへ渡り、1616 年、ついにマラッカで司祭に叙階されました。マカオに戻った後、イエズス会のセミナリオの院⾧に抜擢されましたが、1620 年死去したと言われています。

■日本イエズス会の組織構造
日本のイエズス会は正式会員であるパードレ(司祭)、イルマン(修道士)の他に、同宿、看坊、小者などと呼ばれる日本人が属していました。宣教者の圧倒的多数を占める同宿、看坊、小者は、基本的には氏名不詳です。看坊はキリシタンに改宗した仏教寺院の僧侶で、「教会化」された寺院に住み、キリシタン(旧檀家)の面倒を見ました。葬儀、日常的な宗教指導などは、同宿、看坊を中心におこなわれました。印刷業務を担ったのは、このような日本人が大半でした。なにゆえ、日本人が宣教に不可欠であるのか、1570年代から1590年代にかけて、東インド巡察師として日本布教区を統括したアレッシャンドロ・ヴァリニャーノは、次のように述べています。
「第一、当初から今日に至るまで、日本人修道士の数は不足しており、言語や風習は我
等にとって、はなはだ困難、かつ新奇であるから、これらの同宿がいなければ、我等は日本で何事もなし得なかったであろう。今まで説教を行い、教理を説き、実行された司牧の大部分は、彼等の手になるものであり、教会の世話をし、司祭たちのための交渉の文書を取り扱い、先に述べた茶の湯の世話をするのも彼等である。…彼等はまた、埋葬やミサ聖祭、聖体行列、および盃や肴をもって客を接待するのを手伝う。」(アレッサンドロ・ヴァリニャーノ著『日本諸事要録』1582 年より)

■琵琶法師とキリシタン布教の密接な関係
天草版と呼ばれる、初期のキリシタン版に、ローマ字で書かれた『平家物語』があります。『平家物語』といえば、室町時代初期から盲目の琵琶法師たちが語り継いできた物語で、日本人の死生観に、非常に大きな影響を与えている、と言われます。ほとんど知られていないことですが、イエズス会の日本布教では、上で述べたような仏僧のほかに、これら琵琶法師たちも活用されていました。よく知られている例では、平戸出身のロウレンソ了斎(1526~1592)、山口出身のトビアスがいます。ロウレンソは宣教師が織田信⾧や豊臣秀吉などの為政者や武将等と面会する際には、必ず付き添いました。仏教諸宗派との宗論もロウレンソが主体的におこなっていた(フロイス『日本史』)と言われます。もともと琵琶法師という職業特性上、語りを得意とし、大名や武将との交流に必要な礼儀・所作を体得していた、と言われ高山父子の入信はロウレンソの功績によるものです。16世紀後半、「検校」と呼ばれる朝廷から特殊な許可を得た京都の盲人50人のうち、5人がキリシタンの布教に携わりました。
 仏教の知識が豊富な寺院勤めの元仏僧のほか、「語り」を得意とする琵琶法師も、大いに活用されていたのです。天草版の『平家物語』は、外国人宣教師が容易な日本語を学ぶためだけではなく、この物語に込められた日本的な「哲学」を、学習者が体得するのにも有益であると判断されたのではないでしょうか。

■不干斎ファビアン
不干斎ファビアンは、天草版『平家物語』『伊曽保物語』の編者、『妙貞問答』の著者として知られています。キリシタンになる前は京都の大徳寺もしくは南禅寺(臨済宗)の仏僧であったと言われています。大変明晰な頭脳の持ち主で、キリシタンに入信後、かなり短い期間で「イルマン」に採用され、日本人の若者がキリスト教を学ぶコレジオで教鞭を執りました。ファビアンが教える天草のコレジオでは、天正少年遣欧使節のうち、伊東マンショ、中浦ジュリアン、千々石ミゲルの三人が、勉学に励んでおり、有能な原マルチノだけが別格扱いで、準管区⾧ペドロ・ゴメスの秘書をしていました。1603 年以降は、京都の下京教会で「イルマン」として働き、主に徳川家康や諸大名との交渉で中心的な役割を果たしました。
1607 年頃、京都の下京教会には、「イルマン」としてファビアンの他、かつてファビアンの徒弟であった中浦ジュリアン、原マルチノらが所属していました。おそらくその中でも為政者たちと繋がりの深いファビアンが、中心的な人物だったでしょう。しかしながら翌年、ファビアンを絶望のどん底に突き落とすような事態が発生します。1608 年、ともに日本人イルマンとして活動していた原マルチノと中浦ジュリアンの司祭叙階が決定したのです。当時、日本人が司祭に叙階される例は僅少でしたが、留学エリートで、イエズス会の日本布教のシンボル的存在であった天正使節の彼等は、語学にも秀で、ヨーロッパ人宣教師との繋がりも深かったのでしょう。ほぼ同年齢で、かつては自分の学生であった後進のマルチノやジュリアンが司祭に叙階されるという事実が、どれほどファビアンを傷つけたかは、想像に難くありません。ファビアンは脱会にあたり、上⾧のペドロ・モレホンに対して、イエズス会内部の様々な問題点を論った書状を送ったと言われています。その後ファビアンの脱会の原因は、尼僧との性的な関係によるものであったとイエズス会史料では片づけられてしまい、それまでのファビアンの功績も「背教者」として抹殺されてしまうのです。

■まとめ
最後に、今日の話をまとめます。キリシタン版の制作には、1)日本語が堪能なヨーロッパ人、2)ヨーロッパ言語(ポルトガル語・ラテン語)が堪能な日本人、3)日本文化の教養レベルが高い日本人、4)印刷業に専従する同宿たちの4つの立場の人々が主に関わっていたと考えられます。代表者として名前が残りやすいのは第3の「教養レベルが高い日本人」でした。「教養レベルの高い日本人」は、日本人が元来有する宗教観、宗教的フレームワークに、キリスト教を融合させる機能を果たしたと考えられます。その結果、生まれたのが「キリシタン」という新種の宗教(シンクレティズム=混交宗教)であったと言えます。『平家物語』が、日本語を学ぶ初学者のためのテキストとして選択された背景には、その物語に込められた日本人の死生観を代表とする「哲学」を、テキスト学習を通して体得することも意識されていたのではなかったでしょうか。

<句会報告>
◆岡美穂子選
【特選】
干十字刻まれし墓碑南風        百田登起枝
わが前にしんとおかるる踏絵かな    長谷川櫂
島の果数百年の毒だみの花の闇     井上じろ
薔薇の字のかたち崩れて花の散る    片山ひろし
涼しさの石をなぞれば十字あり     三玉一郎
イエス来て仏と歩む薔薇の園      上村幸三
墨まみれ刷る少年ら夏の寺       越智淳子
少年のおるがんいまもミサ五月     鈴木伊豆山
棄教また諸行無常の道涼し       上村幸三
雨あがりマリアの窟の夏蛙       前田麻里子
ファビアンの日本名いづこ京の夏    越智淳子
【入選】
信心と妄想の中薔薇ひらく       川村玲子
伊留満となりし僧侶や麦の秋      百田登起枝
薔薇の丘出船の汽笛響きけり      片山ひろし
香りたつ活字の薔薇や読み進む     飛岡光枝
海渡る活版印刷大南風         飛岡光枝
ファビアンの汚名をそそぐ夏衣     三玉一郎
遠白くマリア観音明易し        葛西美津子
キリシタン寺にそよぐや青芭蕉     飛岡光枝
キリストと平氏の並ぶ夏の午後     佐藤森恵

◆長谷川櫂選
【特選】
伊留満となりし僧侶や麦の秋      百田登起枝
信心に巣くふ真黒き蛇ならん      飛岡光枝
海渡る活版印刷大南風         飛岡光枝
【入選】
刷りあがる伊曽保物語風薫る      飛岡光枝
砕け散る夢や野望や明易し       葛西美津子
干十字刻まれし墓碑南風        百田登起枝
名も知らぬ同宿たちの夢の跡      岡美穂子
怨嗟と不安よ紅き薔薇白き薔薇     川村玲子
滴れる一語一語の布教かな       葛西美津子
薔薇園の薔薇に呆けし句会かな     上村幸三
遠白くマリア観音明易し        葛西美津子
涼しさの石をなぞれば十字あり     三玉一郎
夢の中夢と知りつつ田を植うる     園田靖彦
捨てし神捨てし仏や紅薔薇       川村玲子
キリシタン寺にそよぐや青芭蕉     飛岡光枝
琵琶法師語れば山の滴れり       葛西美津子
墨まみれ刷る少年ら夏の寺       越智淳子
少年のおるがんいまもミサ五月     鈴木伊豆山
漱石の書入れ研究避暑の宿       佐藤森恵
僧侶また司祭となるや梅雨深し     上田雅子
棄教また諸行無常の道涼し       上村幸三
ファビアンの失意を思ふ皐月かな    百田登起枝
天草のキリシタン版涼しかり      片山ひろし
少年の讃美歌あはれ夏の月       越智淳子
オルガンを弾きて少年青葉潮      鈴木伊豆山
夏草やファビアンの夢辿る道      吉安とも子
キリシタン版一本の月の道       三玉一郎

『こども歳時記』増刷、8刷に

季語と歳時記 投稿日:2019年4月27日 作成者: gokoo2019年4月27日

『こども歳時記』(長谷川櫂監修、季語と歳時記の会編、小学館)が2014年発売以来、8刷になりました。今回2000部増刷、累計22,000部となります。

6月2日、きごさい+は「キリシタン版と日本人」

季語と歳時記 投稿日:2019年4月13日 作成者: dvx223272019年6月8日

お話いただくのは東京大学で南蛮文化の研究をされている岡美穂子(おか・みほこ)准教授。天正少年遣欧使節の帰国とともに伝わった活版印刷技術。その技術を使った本づくりの裏側で働いていた日本人の話です。公園の薔薇も花盛り、初夏の横浜にお出かけください。

演題:天正少年遣欧使節の光と影―キリシタン版と製作に関わった日本人―
講師:岡 美穂子(おかみほこ)東京大学准教授 
プロフィール:京都大学大学院修了。博士(人間環境学)。2003年より東京大学史料編纂所助手、助教を経て、現在准教授。専門は南蛮貿易、キリシタン史。著書に『商人と宣教師 南蛮貿易の世界』(東京大学出版会2010年)、共著に『大航海時代の日本人奴隷』(中央公論新社、2017年)。第17回ロドリゲス通事賞受賞。
講師よりひと言: 活版印刷技術は「西洋文明」を代表するイメージなだけに、その運用に日本人が大いに関わっていたことは、ほとんど知られていません。なぜ、「平家物語」が印刷されたのか、という謎にも新説を交えながら、当時のイエズス会内部の日本人知識人のことを知っていただきたいと思います。

日時:2019年6月2日(日)13:30〜16:30(13:10 開場)
・13:30~14:30 講座 
・14:50~16:30 句会
会場: 神奈川近代文学館 中会議室(横浜市、港の見える丘公園、〒231-0862 横浜市中区山手町110、TEL045-622-6666、みなとみらい線「元町・中華街駅」6番出口から徒歩10分)http://www.kanabun.or.jp/guidance/access/
 
句会:当季雑詠5句(選者=岡美穂子、長谷川櫂)投句締切 14:50。句会の参加は自由です。 

参加費:きごさい正会員1,000円、非会員2,000円。
申し込み:きごさいホームページの申し込み欄から、あるいはきごさい事務局に電話、ファクシミリでお申し込みください。TEL&FAX 0256-64-8333。申し込みなしの当日参加もできます。

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今月のお菓子十二月 クリスマスケーキ



長崎出島のクリスマスはオランダ冬至と呼ばれたそうだ。夜が最も長い冬至、でもその翌日からは日が、光が刻々と伸びてくる。キリスト教国とは言えない日本で、クリスマスの祝い方は一頃に比べだいぶ落ち着いてきたが、クリスマスケーキは、これからも一番待たれる物。誰が誰のために作るかあるいは買うか?目を輝かせる子供たち。寒い冬に心温もるクリスマス。

着ぶくれの車内でかばふケーキ箱 越智淳子

これまでの「今月のお菓子」

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『大人も読みたい こども歳時記』(8刷)
長谷川櫂監修 季語と歳時記の会編著
小学館
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